第三章 倭人伝と『日本書紀』の接点

(2) この人が卑弥呼

 『勘注系図』は始祖である天火明命の六世孫に宇那比姫(うなびひめ)という名前を記す。
そして宇那比姫の別名として次のような名前も記す。
天造日女命(あまつくるひめみこと)、大倭姫(おおやまとひめ)、竹野姫(たかのひめ)、大海靈姫命(おおあまのひるめひめのみこと)、日女命(ひめみこと)である。何れも一人の女性の別名である。




 先ず注目されるのは大倭姫(おおやまとひめ)である。
『日本書紀』や『古事記』で、倭(やまと)の名がつくのは、天皇の妃か子供くらいである。中でも大倭(おおやまと)と「大」が付くのは、古い時代の天皇と七代孝霊の妃、意富夜麻登玖邇阿禮比賣(おおやまとくにあれひめ)くらいのものである。

この女性は天皇と同格の、大倭(おおやまと)の名前を持つ。
大倭とは古い時代「大和朝廷」が支配した国の名である。「大倭」が「大和」となり、後に「日本」となる。大倭姫は大和朝廷の女王の名である。

 さらにこの人は天造日女命(あまつくるひめみこと)という、尊大な名前を持つ。大和朝廷によって地方支配を任されたのが国造(くにのみやつこ)である。天造は天下の支配者という意味となろう。国造よりもっと大きな権威を持った名前である。

そしてまた、大海靈姫(おおあまひるめひめ)という巫女(みこ)姫の名を持つ。『魏志倭人伝』は卑弥呼が「鬼道」に長けていたことを伝える。この人もまた靈姫(ひるめひめ)という宗教的色彩を帯びる。

最後は日女命である。読みは「ひめみこと」であろうが異国の人がこの音を『卑弥呼』と書き表しても不思議はない。
日女(ひめ)とは後の「姫」「媛」などと同じ、高貴な女性を指す言葉である。この日女に「命」という尊称がついたのが日女命である。

 大倭姫、天造日女命、大海靈姫命、日女命とくれば、この人はまさに『魏志倭人伝』が伝える邪馬台国の女王、卑弥呼である。


目次
前のページ 次のページ